1.運動
運動は寿命を延す重要なファクター
●犬にとって運動は必要不可欠の生命活動です。
犬は過酷な運動に耐える身体機構を獲得していますが、その代償として運動を持続しなければならないという宿命も背負っているのです。子犬や成長期の犬は、成長ホルモンが充分に分泌されていますから、運動をあまりしていなくても筋肉や骨格、内臓は成長していき、細胞の代謝も順調に促進されます。成長期を過ぎると成長ホルモンは急激に減少してしてしまうため、細胞代謝の機能は低下してしまいます。
どんな動物でも健康な身体を維持するための細胞代謝をして、古い細胞を新しい細胞に取り替えています。犬は過酷な運動に耐える身体機構を持っていますから、細胞代謝の頻度は人間の約4倍以上と、とても高いのです。この高い細胞代謝を促進させるために運動が必要なのです。運動をすると脳が刺激されて成長ホルモンが分泌することで、細胞代謝が促進されるからです。細胞代謝の正常化は免疫力を高めますから、健康にかかせない生命活動の原点なのです。
●どんな犬でも運動能力はとても高いのです。
狼は獲物を求めて東京から静岡までの距離を走ってからでも、余裕で狩猟ができます。そり用犬は荷物を満載したそりを毎日100キロメートルも曳くことができるのです。大型犬だけではなく、可愛いトイプードルやミニチュアダックスは勇敢な猟犬。ぬいぐるみのようなポメラニアンも頑強なそり用犬の末裔。可憐なヨークシャーテリアはねずみを捕る俊敏なハンターと、使役を目的とした頑健な犬種たちで、アスリートの身体を持っているのです。
猟犬のダックフンド |
ソリを曳いていたポメラニアン |
ハンガーのヨウクシャーテリア |
●犬は運動が大好きな動物です。
人間がスポーツを楽しむ以上に、犬は運動が大好きなのです。それは本能の中に「楽しい狩をするため長距離を走ることが喜び」としてプログラムされているからです。運動をするとモルヒネのように幸福感を生む神経伝達物質の一種、エンドルフィンが分泌されてさらに走りたくなります。走ることで本能的な欲求が満たされるため、ストレスも解消されるのです。
人間も好きなスポーツを楽しむと、運動のあとにはストレスが解消され爽快感がわいてきます。犬は人間以上にストレスを解消できますから精神的な安定をもたらし、身体のメカニズムにも好影響を与えます。このため蘇生力も向上して丈夫な身体になりますから、病気になるリスクも大きく低減して元気で長生きすることができるのです。
運動すると多くのメリットが生まれます
●運動は犬の問題行動を抑制します。
問題を起す犬は飼い主との信頼関係が薄れていると一般的思われていますが、それ以上に大きな原因になっているのがストレスです。暴力やいじめなどによるストレスを別にすると、運動不足から来るストレスが大きな原因となっています。運動をさせないと犬の本能は、楽しみを禁止されていると理解しますから不満として蓄積され、やがて大きなストレスとなっていくのです。
愛情いっぱいに飼っても問題行動を起すとすれば、運動不足が原因となっている場合が多いのです。普段運動をあまりしていない犬が外に出ると、嬉しさのあまり本能の悪い面が出てしまうのが原因です。充分な運動をさせると、楽しいという本能が満足しますからストレスが蓄積されないのです。問題行動を抑制するしつけも、ストレスがないとスムーズに受け入れて覚えてくれます。しつけは若い時に覚えさせろといわれていますが、運動でストレスがなくなると高齢になっても覚えることができるのです。ストレスのない楽しい日々の生活こそ、犬の問題行動を根本から解消させてくれる原点なのです。
●運動は犬の知能を高めます。
野生の狼は知能が高く犬の2倍は賢いといわれています。これだけの差があると、犬は知的障害者ともいえる差が出ていることになります。犬と狼は同じDNAをもつ亜種でありながら大きな違いがでるのはハード面とソフト面に原因があります。ハード面で作用しているのが運動量で、狼の運動量は桁違いに多いのです。運動をすると心肺機能から代謝機能まですべてが活性化します。脳には充分な血液とともに酸素とブドウ糖が充分に供給されますから、脳は活性化して神経細胞が発達するのです。このメカニズムが充分に機能しているか否かが、狼と犬のハード面の差です。犬も充分な運動をさせると狼と同様なメカニズムが機能して、神経細胞をさらに発達させることが可能になるのです。
ソフト面では生活の仕方が大きく関わっていると考えられています。狼は広大なテリトリーを群れとともに長距離を行動をしています。美しい自然からは、豹変する自然現象や他の動物からの脅威をはじめ多くの事を学び、親やベテランの狼からは生活の基本を常に学んでいるのです。耳や鼻からの情報をどう活用するか、どこにどんな獲物が出現して、どう狩をしたら効率が良いかなど、学んだ知識を応用もしているのです。豊富な知識と応用力の差が狼と犬の知能の違いとなっているのです。
犬の運動も同じコースをたどるのではなく変化をつけることが大切で、新鮮な刺激を犬に与えることができるからです。変化をつけると毎日違った情報が入ってきますから、学習して応用力もついてきます。考えると情報を伝達するシナプスが多く分泌されるため、神経細胞を発達させることができるのです。
●犬の嫌な体臭がなくなります。
犬種による違いは多少あっても犬の体臭はいやなものです。体臭には大別すると2種類あり、ひとつは犬の毛などに付着した汚れが腐敗しておきる外因性の臭いです。汚れからくる臭いは相当放置しなければひどく臭うものではく、臭いの質も鼻をつくような体臭ではありません。
最も気になる体臭は内因性の鋭角的な臭いで、主な原因は腸内環境の悪化です。運動をしていないと消化器系の機能が低下しますから、大腸菌を始めとする悪玉菌が大量に増殖します。このとき生成されるのが硫化水素やアンモニアなどの腐敗物質です。この目にしみるような臭いの強い物質は毛細血管が吸収しますから、血液を伝って全身に逆流してしまいます。これが粒子となって口や皮膚の表面から発散するために、臭ってくるのが嫌な体臭なのです。
運動による内臓機能の活性化は人間より遥かに早く機能するのが犬ですから、運動が重要になってくるのです。充分な運動をしていると筋肉から心臓、肺などが大量のエネルギーを消費しますので、補給するために内臓の機能が働きだします。胃は胃液を大量に分泌して食物を溶かし、分解しやすい状態で腸へと送ります。腸には善玉菌といわれる良いバクテリアがいて分解してくれますが、良く溶けていないと分解してくれません。この溶けていない食物が大腸菌など悪玉菌にとっては大好物なのです。食物が溶けていると良いバクテリアが活発になるため、悪玉菌の環境が悪化して増殖ができませんから腐敗がおきないのです。腐敗がおきなければ嫌な体臭も消えるのという、良いサイクルが生成されるのです。
汗腺が少ない犬は人間よりも体臭が少ないのが本来の姿です。運動を良くしている犬の家庭内は、嫌な臭いがしませんから消臭剤を必要としないのです。さらに食の改善(2の食餌を参照)を併用した場合、犬はほとんど無臭化します。
※運動の詳しい方法は、書籍「ワンちゃんの長寿化マニュアル」に掲載されています。
●病気知らずの健康な身体になります。
ひ弱で虚弱体質の犬も運動をすることで大幅な体質改善が可能になります。犬が運動をすると内臓器官から骨格、筋肉まですべての機能が活性化して、免疫力や蘇生力がどんどん向上してゆきます。運動をする→持久力が向上→さらに運動が可能→健康体の定着。という良好な作用が発生して健康な身体に改善させます。
健康になった犬は病気にかかるリスクが大きく減少しますから、頻繁に病院へ行くこともなくなります。もし、怪我や病気に掛かっても免疫力の向上と細胞代謝の正常化が作用して、驚異的な回復力を発揮しますから通院や入院の日数も減少します。また、身体が健康になると犬は人間とのコミュニケーションを積極的にとるようになるため、良好な関係を築けるなど多くのメリットも生まれるのです。
運動をしないと危険なリスクが発生します
●筋肉だけではなく臓器も萎縮して寿命を縮めます。
成長期を過ぎても運動をしないでいると、走るために必要な筋肉や骨が大幅に減少してゆきます。さらに運動機能を支えている心臓、肺や胃、腸など、すべての臓器も萎縮して機能も大きく低下してしまいます。
これは「運動をしないと骨や筋肉が萎縮して運動がしずらくなる→運動できないから他の臓器も萎縮してさらに運動ができなくなる」という衰退のスパイラルが起きます。犬は5〜6歳を過ぎると老化が始まると一般的に思われていますが、実は「老化」ではなく、運動不足による身体機構の「衰退」なのです。
臓器全般が衰退してしまいますから病気に対する抵抗力も大きく低下してしまいます。この結果、虚弱な体質となるだけではなく、生活習慣病の要因にもなるため、寿命を縮めることになります。このメカニズムは人間も同じですが、遥かに大きい影響をうけるのが犬なのです。回遊魚のマグロは泳ぎを停止すると死ぬといわれています。直接の死因は呼吸不全ですが、パワーボートなみの早さで常時泳ぎ続けるメカニズムは、犬と通じるものがあります。運動を停止すると犬も死んでしまうと考えてください。決してオーバーな表現ではないのです。
●生活習慣病にかかる確率が増加します
周りの犬を観察してみてください。肥満していない犬の方が少数派ということを理解されるでしょう。生活習慣病の予備軍といえるメタボリック・シンドロームにかかつている犬は、その半数以上いると思われています。これは人間より遥かに多い比率で、犬が長生きできないのも当然ではないでしょうか。
半世紀ほど前、犬を番犬として飼っていた時代に肥満した犬は少数でした。この時代では犬の放し飼いは一般的でしたから、犬も自由に運動ができたのです。その後、ペットとして家の中で飼われるようになり、比例するように運動量が減ってきたことも大きな原因のひとつです。肥満は運動だけが原因ではありませんが、犬の場合は運動不足からメタボリックシンドロームにかかる確率が人間より高いのです。犬に運動をさせないことは虐待と同意語と考えてください。
運動の量と質が重要です
●健康で長生きさせるために必要な運動量は意外なほど多いのです
犬の大きさは犬種により大きな差がありますが、小さい犬種でも以外と多い運動量を必要としています。ミニチユア・ダックスフンドやヨークシャー・テリアなど、小さい犬種は人間が歩く速度で2キロメートル以上の距離を必要としています。
運動を多くさせている例では、足が短く走りが不得手に見えるミニチュア・ダックスフンドでも10キロメートルの距離を平均時速8キロメートルで、毎日走っている例もあります。段階的に運動量を増やせば可能になるのです。おっとりしたイメージのゴールデン・レトリバーも20キロメートルの距離を平均時速10キロメートルで、毎日走っている例も珍しくありません。
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